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プロジェクトの背景と目的

①地域の現状

 

新潟市秋葉区の小須戸地区は、江戸から明治、大正にかけて信濃川舟運の川湊として栄えた在郷町です。
地区内には当時の繁栄の名残を伝える町屋の町並みのほか、伝統的なお祭りや機織り、花卉栽培といった特徴的な産業など、様々な地域資源が残っています。

一方で、地域の現状として、人口減少・高齢化が進んでいるという事実があります。国勢調査の情報を確認すると5年間で約8%の人口が減少し、高齢化率は5%増加しています。

また、商店の減少や町の空洞化も進んでいます。小須戸商工会の実態調査によれば、商工会の会員数は10年で3割減、中心商店街である本町1~4にかけてでは、4割近く減少しています。

人口減や店舗の廃業による空き家の増加に加え、2010年には本町通り沿いの町屋密集地でで火災が発生し、延焼により23棟が全半焼する影響もあり空き地も増えてきました。人が減り、店が減った結果、地域の特色である歴史文化も危機的な状況といえます。

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②町屋ギャラリー薩摩屋の開館と水と土の芸術祭2012

小須戸本町通りのほぼ中央、小須戸商工会館の向かいに位置する「薩摩屋」は、2005年に酒店が廃業し、以降は空き店舗となりました。小須戸商工会等による空き店舗対策の取り組みが進められるも、新たな出店希望者が現れることはありませんでした。

その後、2009年になり、地域のまちづくり団体「小須戸町並み景観まちづくり研究会」が、水と土の芸術祭2009の地域プロジェクトに応募し、薩摩屋を借用・清掃し、まち歩きの休憩所として活用を図りました。商店としての活用ではなく、町屋の見学施設としての活用であり、2010年以降は小須戸小学校区コミュニティ協議会(現在は小須戸コミュニティ協議会)が管理・運営を担っています。

2010、2011年の2年間は、薩摩屋もまち歩き等のイベントに合わせて不定期開館を行うのみでしたが、2012年4月からは、秋葉区内の文化施設連携の一環で「町屋ギャラリー薩摩屋」として土・日・祝日の定期開館を開始しました。そして、その年に開催された水と土の芸術祭2012の「アートプロジェクト」の作品展示会場となりました。

地域を訪れたアーティスト南条嘉毅さんの作品の制作・展示を通して感じられたアートによる発信力、活用方法を模索していた薩摩屋でのアートによる集客や、場所そのものの見え方の変化、新たな気付きといった効果、さらには、新潟市新津美術館をはじめとした区内文化施設の連携といった文化施設連携の枠組みのより効果的な活用という課題を踏まえ、翌年の2013年以降、薩摩屋を活用した独自のアートプロジェクトを進めていくこととしました。

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南条嘉毅:砂利船(水と土の芸術祭2012展示作品、撮影:風間源一郎).jpg

撮影:風間源一郎 

③町屋を中心とした活動による地域の変化

地域衰退の兆しが見える一方で、小須戸地区では2007年からは町屋を巡るまち歩き等、町並みまちづくりの取り組みが進められてきました。

まち歩きには延べ400名以上の参加者があったほか、小・中学校と連携した景観学習の取り組みは平成24年度都市景観大賞「景観教育・普及啓発部門」優秀賞受賞を受賞し、同時に地区内の数軒の店舗や住宅で新潟市の景観整備助成事業「なじらね協定」を活用した外観改修が進められてきました。

また、2012年に町屋ギャラリー薩摩屋が開館して以降は、空き店舗や空き地に新規出店が相次ぎました。町屋を活用したカフェや飲食店、私設の美術館などが立て続けにオープンし、メディアに取り上げられることも増え、地区への来訪者が徐々に増えてきました。

こうした動きを加速させるべく、小須戸コミュニティ協議会が運営する「町屋ギャラリー薩摩屋」を中心に、地域資源の連携を促進する取り組みを進めてきました。旧来の商工会や商店街等による集客イベントではなく、新規出店者間でネットワーク化を図り、継続的に地域に関わるきっかけを作る動きを進めています。

近年では町屋を中心とした活動への評価があり、小須戸地区は新潟市の移住モデル地区へ指定されました。

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④地域の現状に対する仮説

①、②、③の状況を踏まえ、地域の現状に対して下記のような仮説を立てています。

地域の住民にとって当たり前の「町屋」が地域に変化を起こしつつあるように、住民にとって当たり前の地域資源に価値を見出す人が存在すること、その地域資源の価値を内外に発信していくことで、地域に関わる人、特に若者やクリエイティブな人材を増やして行くために、アートプロジェクトが有効ではないかと考えています。

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⑤地域資源と地域におけるアートの役割

「町屋」は小須戸地区の地域資源の一例であり、地域には他にもたくさんの地域資源があると考えています。

外部から地域にアーティストが入ることは、地域に対して様々な影響を与えます。それは「作品を制作・発表するイベントを行うことで、多くの人が地域を訪れ、賑わいが生まれる」という単純な話だけではありません

例えばそれは、リサーチを行うことで住民が気付かない新たな地域資源を見出すことであり、制作にあたって地域資源とひと、場所との新たな関係性を構築することであり、作品として発表することによる情報発信や来場者と地域住民との新たな交流を生み出すことでもあります。

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⑥プロジェクトの目的

上記をふまえ、本プロジェクトの目的を下記の図に表します。

地域外から作家を招くこと、アート作品を通して地域外から参加者を呼び込むことから、「地域の魅力発信」や「新たな関係性の構築」そして「まちの「活用」」などの地域外に目を向けた部分が表面的には目立ちますが、その裏には、地域の内側、町に住む人々に向けた「地域の再発見」の機会の提供や「既存の関係性の活性化」の促進、そして「まちの「持続」」に繋げていくことが常に意識されています。

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